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東山浄苑東本願寺 緊急避難道の意義と特徴 京都大学名誉教授 河田惠昭

京都盆地は、花折、黄檗、京都西山断層によって形成されました。幸いにも、これらの断層は過去千二百年にわたって活動していません。しかし、地震災害というのは起こらなければ起こらないほど、危険性が増すという問題があります。京都市では平成十七年三月に京都市防災マップを作成し、これらの断層が地震を起こすと、どの程度の人的被害、火災の発生、物的被害が発生するかということを公表してきました。また、政府の中央防災会議の東南海・南海地震等に関する専門調査会でも、平成十九年十二月にこの花折断層に関する被害想定結果を発表して参りました。いずれの調査結果も、地震が起これば甚大な被害が発生することを予測しております。

花折断層は、この東山三十六峰の西麓を南北に走っており、全長が五十キロに達する活断層ですが、京都市東山区より南部では、北部・中部に比べてその存在がはっきりしていません。しかし、もしこの断層が地震を起こすと震度六強から七の揺れに襲われることになります。そうすると、五条バイパスから浄苑につながる自動車道路は、それ自体が被災して通行不可能になる、あるいは山の斜面の土砂崩れや落石、立木が倒れてくるなどの被害によって、浄苑が孤立する可能性があります。浄苑では年間三十万人を超える参詣の人びとを数えますが、とくにお彼岸の中日などに地震が起これば、大変なことになることを心配しております。

しかも、地震時に火災が発生し、それが東山まで延焼するようなことが起こることも想定する必要があります。すぐにこの浄苑から安全な場所に避難しなければなりません。しかし、これまではアクセス道路はアスファルト二車線の道路が一本あるきりで、とくに山門から浄苑につながる道路部分は、崖の中腹を縫うように走っており、この耐震性を高めることは事実上、不可能に近い状態と言えます。

そこで、本願寺維持財団(当時:現一般財団法人本願寺文化興隆財団)では、浄苑への参詣の皆様、またここで働く関係者の安全を考え、緊急避難道の建設を計画されました。その段階で京都大学に協力の依頼があり、尾池総長から、当時防災研究所所長の職にあった私に話がありました。私自身は、政府の専門調査会の副座長ということもあって、花折断層地震の危険性に関しては十分な知識をもっておりました。したがいまして、本願寺維持財団(当時:現一般財団法人本願寺文化興隆財団)が自助努力で緊急避難道を作りたいというご意思を高く評価し、私も協力して実現に向かって一歩を踏み出した次第です。この避難道の完成によって、災害時に浄苑で孤立する恐れはなくなりました。このような自助努力による緊急避難道の建設は、わが国では初めての快挙ですし、とくに文化遺産が集中する京都の地震防災を進める上で、画期的なことと言えると思います。

さて、この道路の特徴ですが、公正建設の協力を得て、地震時に被災するようなことでは困りますので、斜面を横切る道路として、全長にわたって切り土構造を採用しております。すなわち、地震時には盛土部分が崩落する事例が多々ありますので、そのようなことが起こらないような構造を採用しました。また、参詣の皆様の中で、高齢者や幼児、女性という災害時要援護者となられる人が多いことから、斜面勾配は可能な限り緩くしてありますし、また車いすでの走行にも配慮した構造になっております。そのほか、風致地区としての景観への配慮や維持管理上の容易さも考慮させていただいております。

今後は、少なくとも年二回くらい実際に歩いてみるという訓練をしていただくとともに、それが避難路の路面の締め固めに役立ちます。いざというとき、皆さま方を守る道路ですから、末永く大切にしていただくことを心より願っております。