-蓮如賞-
戦国の世に我が国最大の教団を作り上げた蓮如上人の五百回忌を記念し、その遺徳を顕彰する願いを込めて平成六年(一九九四)、本願寺維持財団(当時:現一般財団法人本願寺文化興隆財団)が創設した。日本の精神文化の深淵を探るノンフィクション作品に贈与している。- 柳田邦男(作家)
- 魂の在り処を探る作品を このところ『方丈記』を座右に置いている。この国の混迷は、単なる経済的な長期低迷の次元だけの問題ではない。物質的繁栄のみに狂奔したときに何を突きつけられるか、『方丈記』の時代以来の普遍的な問題を問われているのだと思う。失われた心、壊れた心を再生させ、そして何よりも魂の在り処をほの明るくであっても提示してくれる作品に出会いたいと願っている。
- 山折哲雄(宗教学者)
- 蓮如賞についての意見 叫ぶように書く、ということがあるだろう。それも悪くない。またときに、語るように書く、という気分になることもあるのではないか。語り部になった気分、といってもいい。もう一つ、つぶやくように書く、ということもあるかもしれない。そんなとき、自分が全宇宙の一点になっている。どんな書き方があってもいい。要は、激しく考え、優しく書く、ということである。私の自戒であり、期待である。
第16回蓮如賞
- 『小林秀雄 美しい花』
若松 英輔
(文藝春秋刊) -
-あらすじ-
批評とは謎をそのままに沈黙の響きの中に身を置くことだ。
『ランボオ』『Xへの手紙』『ドストエフスキイの生活』から『モオツァルト』まで。
小林秀雄の著作を生き直すように読み、言葉の向こうへ広がる世界へと誘う。
- 受賞者紹介
- 若松 英輔(わかまつ えいすけ)
- 1968年新潟県生まれ。批評家、随筆家。東京工業大学リベラルアーツ教育研究院教授。「越知保夫とその時代 求道の文学」で第14回三田文学新人賞受賞。『叡知の詩学 小林秀雄と井筒俊彦』(慶應義塾大学出版会)で第2回西脇順三郎学術賞を受賞。『詩集 見えない涙』(亜紀書房)で第33回詩歌文学館賞を受賞。『小林秀雄 美しい花』で第16回角川財団学芸賞を受賞。著書に『井筒俊彦 叡知の哲学』(慶應義塾大学出版会)『悲しみの秘義』(ナナロク社)、『イエス伝』(中央公論新社)など多数。
- 授賞式・記念シンポジウム…令和元年12月9日(月)
一般財団法人本願寺文化興隆財団(大谷暢順理事長)は令和元年12月9日、日本人の精神文化に根差した優れたノンフィクション作品に贈る第16回蓮如賞の授賞式と記念シンポジウムを開き(後援:文化庁、京都市、京都府、京都商工会議所《第二部より》)、約300人が集いました。
創設25周年を迎えた同賞の受賞作は、若松英輔氏(批評家・随筆家)の『小林秀雄 美しい花』。大谷当財団理事長による記念講演、受賞者の若松英輔氏、選考委員柳田邦男氏(作家)・山折哲雄氏(宗教学者)によるシンポジウムへと続きました。
記念講演で大谷理事長は、我国の近代以降の歴史を振り返りつつ、佛教の「業(ごう)」の思想により、一直線に進めず、円周運動を繰り返す人間だが、それは国家や民族も同様であるとの新説を主張。今こそ照顧脚下して、将来進むべき新たな道を考えるべきと指摘されました。
続くシンポジウムでは、「蓮如賞のこころと日本文化」をテーマに、我国の精神文化の深層について、受賞作や文学、思想から迫りました。
授賞式の様子 シンポジウムの様子
第15回(平成29年)
- 『宮沢賢治の真実
―修羅を生きた詩人―』
今野 勉
(新潮社刊) -
-あらすじ-
半世紀以上にわたり賢治を愛読してきた著者が出会った異形の詩。たった4行の背後に、誰も知らない賢治がじっと息を潜めていた。「春と修羅」「永訣の朝」「銀河鉄道の夜」――名作の奥底に潜む実人生の慟哭。比類なき調査と謎解きで賢治像を一変させる圧巻の書。
- 受賞者紹介
- 今野 勉(こんの つとむ)
- 1936年秋田県生まれ。4歳で北海道移住。59年東北大学文学部卒業、ラジオ東京(現TBS)入社。ドラマ「七人の刑事」などを演出。70年日本初のテレビ番組制作会社「テレビマンユニオン」創設に参加。これまで多くのドラマやドキュメンタリーの制作に携わり、既成の枠を超えてテレビ表現を追求する。95年芸術選奨文部大臣賞。著書に『金子みすゞ ふたたび』など。プロデューサー、演出家、脚本家、テレビマンユニオン最高顧問。
- 授賞式・記念公開シンポジウム・・・平成29年12月12日(火) 優れたノンフィクション作品に贈られる第15回蓮如賞(主催:一般財団法人本願寺文化興隆財団)授賞式と記念シンポジウムが平成29年12月12日、京都市山科区の東山浄苑東本願寺で開催されました。受賞作はテレビプロデューサー・今野勉氏の『宮沢賢治の真実―修羅を生きた詩人―』。大谷暢順当財団理事長の基調講演や、選考委員を務める梅原猛氏、柳田邦男氏、山折哲雄氏の選評や、受賞者を交えてのシンポジウムから日本文化の深層に迫りました。
約300人が参加した授賞式で、選考委員の梅原氏は同作品を「聖なる人間の背後には常に深い闇があることを明らかにした画期的作品」と講評。続いて大谷理事長より、今野氏へ表彰状と正賞記念品、副賞が授与されました。
基調講演では、大谷理事長が現代日本の直面する危機に警鐘を鳴らし、「それでも我々は仕合せにならなければならない」と説きました。またそのためにも、伝統に基づく日本独自の融和精神を世界へ向けて顕彰していくことを提言しました。
記念シンポジウムでは、「京都のこころ 日本のこころ」をテーマに、選考委員の柳田氏と山折氏、受賞者の今野氏がパネラーとなり、受賞作を通じて宗教・哲学・文学等の多角的側面から日本文化について論じ合いました。
今野勉氏 授賞式の様子 シンポジウムの様子
第14回(平成27年)
- 『西洋人の神道観
日本人のアイデンティティーを求めて』
平川 祐弘
(河出書房新社) -
-あらすじ-
祖先崇拝・自然崇拝を特色とする日本人の宗教感情は、西洋人には理解されない特殊なものか?
明治の開国以来、戦前までに来日した西洋作家や学者は、日本の宗教文化をどのように観察し、理解したか。神道と日本人の関わりとは。そして「神道とは何か」を国際的視野から読み解く画期的な書。
周辺文明の国・日本の宗教を問う。
- 受賞者紹介
- 平川 祐弘(ひろかわ すけひろ)
- 1931年東京生まれ。東京大学卒。現在、東京大学名誉教授。比較文化史家。文学博士。著書に、『和魂洋才の系譜』『ダンテ「神曲」講義』他。訳書に、ダンテ『神曲』『新生』、ボッカッチョ『デカメロン』、小泉八雲『骨董・怪談』他。1967年 河出文化賞(ダンテ『神曲』翻訳)、1981年 サントリー学芸賞(社会・思想部門)(『小泉八雲』を中心として)、1991年 読売文学賞(マンゾーニ『いいなづけ』翻訳)、2005年 和辻哲郎文化賞(『ラフカディオ・ハーン 植民地化・キリスト教化・文明開化』)、2009年 日本エッセイスト・クラブ賞(『アーサー・ウェイリー 『源氏物語』の翻訳者』)。今回の蓮如賞受賞作はフランス語 A la recherche de l’identite japonaise―le shinto interprete par les ecrivains europeens (Paris :l’Harmattan,2012)の日本語補足拡大版です。
- 授賞式・記念公開シンポジウム・・・平成27年12月10日(火) 優れたノンフィクション作品に贈られる第14回「蓮如賞」の授賞式・記念シンポジウム(主催:一般財団法人本願寺文化興隆財団 後援:文化庁、京都市、京都府、国際交流基金、京都商工会議所)が、平成27年12月10日、京都市山科区の東山浄苑東本願寺で行われました。受賞作は、比較文化史家・平川祐弘氏の『西洋人の神道観―日本人のアイデンティティーを求めて―』。
授賞式後、大谷理事長の基調講演では、日本文化の根底を成す神仏習合の精神と、そこから生まれた「和の精神」、そして、異なる文化や思想を対立させず、相互共鳴させる世界を作り出す、世界に誇るべき日本人の価値観について迫りました。
そして、大谷理事長は、この日本人の智恵を、国際社会が混迷する今こそ、京都から世界中の人々に発信していくことが大切であると強調しました。
大谷理事長の基調講演を受けて、我が国の碩学、梅原猛氏、柳田邦男氏、山折哲雄氏の同賞選考委員と受賞者平川氏による「日本人の智恵」と題した記念シンポジウムへと続き、宗教、哲学、芸術、文学等から多角的に日本文化を論じ合い、国内外での日本文化、精神の昂揚に貢献しました。
なお、このシンポジウムの要旨は、『文藝春秋』平成28年3月号(芥川賞発表号/平成28年2月10日発売)に掲載されております。是非ご覧ください。
平川祐弘氏 東山浄苑での蓮如賞受賞式 シンポジウムの様子
第13回(平成25年)
- 『評伝 野上彌生子 ―迷路を抜けて森へ』
岩橋 邦枝
(新潮社) -
-あらすじ-
夏目漱石の指導を受け、二十二歳でデビュー。生涯休むことなく小説を書きつづけ、百歳直前にしてなお傑作『森』をものした野上彌生子。中勘助への秘めた初恋の想い。野上豊一郎との勉強仲間のような夫婦生活。六十八歳になってから恋文を交わしあった田辺元。死の瞬間までアムビシアスでありたいと願った彌生子の書き下ろし評伝。
- 受賞者紹介
- 1934年、広島市に生まれる。57年お茶の水女子大学教育科卒業。在学中に「つちくれ」が第2回「文藝」全国学生小説コンクールに当選、「不参加」が婦人公論女流新人賞に入選。「逆光線」は映画化された。81年『浅い眠り』で平林たい子文学賞、85年『伴侶』で芸術選奨新人賞、92年『浮橋』で女流文学賞、93年『評伝 長谷川時雨』で新田次郎文学賞、2012年『評伝 野上彌生子―迷路を抜けて森へ』で紫式部文学賞受賞。他に『泡沫の秋』『夢の火』等がある。
- 受賞式・記念公開シンポジウム・・・平成25年12月10日(火) 優れたノンフィクション作品に贈られる第13回「蓮如賞」の受賞式・記念シンポジウム(主催:財団法人本願寺維持財団(当時:現一般財団法人本願寺文化興隆財団) 後援:文化庁、京都市、京都府、国際交流基金、京都商工会議所)が、平成25年12月10日、京都市山科区の東山浄苑東本願寺で行われました。受賞作は、作家・岩橋邦枝さんの『評伝 野上彌生子―迷路を抜けて森へ』。
受賞式後、大谷理事長の基調講演では、海外で評価される「クールジャパン」には、根底を成す日本文化と日本人の精神の紹介が欠けている点を指摘。東日本大震災の海外報道等から、日本人の精神の淵源にあるのは聖徳太子以来の「和の精神」と「神仏習合」の思想であると述べました。
そして、これが「もののあわれ」「わび、さび」「幽玄」等、日本人特有の美意識となり、芸術、建築、匠の技の工程等、日本人の生活のすべてに多大な影響を及ぼしてきたことも紹介。また、「恩」に対する日本と西洋の解釈の違い等にも触れ、これらの文化、精神を「日本人の智恵」として、世界の人々に発信していく必要性を論じました。
基調講演を受けて、我が国の「知の巨人」である梅原猛氏、三浦朱門氏、山折哲雄氏、柳田邦男氏の同賞選考委員と受賞者による「クールジャパン 日本人の智恵」と題した記念シンポジウムへと続き、文化、宗教・芸術・文学等から多角的に日本文化を論じ合い、国内外での日本文化、精神の昂揚に貢献しました。
なお、このもようの要旨は、『文藝春秋』3月号(芥川賞発表号)に掲載される予定です。
岩橋邦枝氏 東山浄苑での蓮如賞受賞式 シンポジウムの様子
第12回(平成23年)
- 藝術の国 日本 画文交響
芳賀徹
(角川学芸出版刊) -
-あらすじ-
絵画と詩歌、美術と文藝 二つの領域が響き合い、親和する列島の文化空間を往還し、藝術の国としての日本のすがたを描く論文とエッセイの連珠集。
- 受賞者紹介
- 1931年(昭和6年)、山形市生まれ。東京大学大学院比較文学比較文化博士課程修了。東京大学名誉教授(文学博士)。国際日本文化研究センター名誉教授。静岡県立美術館館長。岡崎市美術博物館館長、京都造形芸術大学学長等を歴任。『平賀源内』(サントリー学芸賞)、『絵画の領分―近代日本比較文化史研究』(大佛次郎賞)等著書多数。
- 授賞式・記念公開シンポジウム・・・平成23年12月10日
- 優れたノンフィクション文学に贈る第12回「蓮如賞」(主催=財団法人本願寺維持財団(当時:現一般財団法人本願寺文化興隆財団)、大谷暢順理事長)の授賞式、記念シンポジウムが平成23年12月10日、京都市山科区の
で行われた。今回の受賞作は、芳賀徹東京大学名誉教授の『藝術の国日本 画文交響(がぶんこうきょう)』。式後、大谷理事長の基調講演、梅原猛氏ら四人の同賞選考委員と受賞者による「日本人の智慧(ちえ)」と題したシンポジウムと続き、仏教や文学、芸術、さらには外交から日本文化を語り合い、その高揚を期した。
芳賀徹東京大学名誉教授 東山浄苑での蓮如賞受賞式 シンポジウムの様子
第11回(平成21年)
- 記憶の中の源氏物語
三田村雅子
(新潮社刊) -
-あらすじ-
1000年の間、日本人は源氏を読んできたのだろうか?ただ、「記憶」の中で継承しただけではないのか。
中世から近代まで、天皇家、貴族、将軍たち、戦国大名、女たち、庶民は、源氏をどのように享受し、利用したのか。
- 受賞者紹介
- 1948年東京都生まれ。早稲田大学大学院日本文学博士課程修了。1981年「『枕草子の〈笑ひ〉と〈語り〉』ほかで日本古典文学会賞、早稲田大学国文学会窪田空穂賞受賞。フェリス女学院大学文学部教授、同大学付属図書館長を経て、上智大学文学部教授。「源氏物語」「枕草子」を主な専門とする日本文学研究者。「日本文学協会」委員長、「中古文学会」常任委員、「物語研究会」メンバー。
- 授賞式・記念公開シンポジウム・・・平成21年12月10日
- 「人類共通の叡智 京都文化」をテーマとしたシンポジウムを京都市と共催。主催者である大谷暢順財団理事長の基調講演、受賞者と選考委員が日本文化について多彩に語り合う公開座談会が行われた。
大谷理事長は、人間中心主義と二元論を基盤としているアメリカのデモクラシー(民主主義)は「人類共通の叡智」にはなり得ないと看破。これに対して、寛容・調和の神仏習合を成し遂げた日本佛教に基づく日本の精神文化、即ち京都文化こそが真の「人類共通の叡智」となり得ると提唱された。
これをうけて、選考委員と受賞者三田村氏による公開シンポジウムへと移った。山折氏は、「京都のまちの都市形成は、森林と神仏の領域が融和した形で鎮まっており、神仏共存の構造が風土的にも政治的にも経済的にも都市形成にも反映している」とその特色を指摘した。三田村氏は、現在も通りの名前やかつての池の名前を痕跡としてもっている京都を、「地層のように古い歴史を積み上げている都市」と評価。この他、文明語を生み育てた根源地としての京都など、京都と京都文化をめぐって、文学、宗教、芸術など多方面から語り合った。 -
門川大作京都市長が挨拶
第10回(平成19年)
- 坂口安吾 百歳の異端児
出口裕弘
(新潮社刊) -
-あらすじ-
異邦人にして賢者。挫折者にして悪魔。生誕百年、坂口安吾が現代に甦る!今なお光りを放つ卓抜な日本論の数々、そして甘美な恋愛小説など、傑作を次々と生み出す一方、隙だらけの文章で暴走し、読者を振り回す-。不毛な恋に身をやつし、果敢な文学追求の道半ばで逝った正体いまだ不明の愛すべき巨人・坂口安吾を、生涯をかけて読み込んできた著者が、その魅力も弱さも大胆に語り尽す。
- 受賞者紹介
- 1928年、東京生まれ。東京大学文学部仏文科卒。フランス文学者、小説家、エッセイスト。元一橋大学教授。小説に『京子変幻』『越境者の祭り』『東京譚』、評論に『辰野隆・日仏の円形広場』『三島由紀夫・昭和の迷宮』『太宰治変身譚』、エッセイに『私設・東京オペラ』などがある。ジョルジュ・バタイユやシオランの翻訳者としても知られる。
- 授賞式・記念公開シンポジウム・・・平成19年12月11日
- 授賞式後、蓮如賞が第10回を数えたことを記念し、京都市の後援をえて、公開シンポジウム「日本文化興隆に向かって」が開催された。
主催者である大谷暢順財団理事長が基調講演を行い、鎌倉佛教が平安以前の佛教に対するアンチテーゼの教えであることを指摘。「全く対照的なこれら二つの時代の佛教を体験してきたわが国は、今やジンテーゼ(合定立)を模索すべき時」と述べ、現在世界で起こっている宗教抗争に、わが国が明日の佛教を確立することで活路を見出せるのでは、と講演。
これをうけて、選考委員四氏と受賞者の出口氏によるシンポジウムへと移った。梅原氏は「草木国土悉皆成仏」を挙げてこれを日本独自の考え方、日本文化の中心であると指摘、世界に通じる思想では、と述べた。三浦氏は「人間と人間以外とを一線を画して、人間以外を客観視したのがヨーロッパ文化。人間以外のものを客観視することがなかった日本文化の良さも悪さも改めて我々が検討することで世界に影響を与えられるような日本的な文明をつくり得る。もう一度日本の原精神、精神史というものをふり返る必要がある。」と指摘した。このほか、佛教、文学、芸術など多彩な分野から話し合われ、日本文化の高揚を期した。
第9回(平成17年)
- 北原白秋
三木卓
(筑摩書房) -
-あらすじ-
詩集『邪宗門』『思ひ出』、歌集『桐の花』、童謡集『とんぼの眼玉』―北原白秋が日本の近代文学に残したかけがえのない仕事を、生い立ち、実家の破産、人妻との姦通事件などへ踏み込みながら追尋する本格的な評伝。
- 受賞者紹介
- 1935年東京生まれ。早稲田大学露文科卒業。詩人、作家として、詩誌「氾」「現代詩」を中心に詩作活動を行い、1966年詩集『東京午前三時』でH氏賞、1970年『わがキディ・ランド』で高見順賞を受賞。1973年には『鶸』で芥川賞受賞、活動の中心を小説に移す。他に、児童書『ぽたぽた』(野間児童文芸賞)等。翻訳もこなす。1999年紫綬褒章受章。
- 授賞式・記念公開シンポジウム・・・平成17年12月3日
-
第9回蓮如賞は三木卓氏『北原白秋』に授与された。主催者の大谷暢順財団理事長は、「この『北原白秋』は、明治末期から昭和初期にかけて、西欧文化の消化吸収と日本伝統文化の育成発展という課題を背負う、我国文壇の指導的役割を演じた白秋の苦悩と栄光に充ちた人生を見事に描き出した、佛教世界観・佛教人生観の発揚と申せるでしょう」と受賞を讃えた。授賞式に引き続き、公開シンポジウムが開催され、蓮如賞選考委員四氏、受賞者の三木氏が偉大な国民詩人・北原白秋の栄光と苦悩について語り合った。三木氏は「白秋は偉大な詩人だと言われているけれども、非常に多面的で膨大な量の仕事をしたため、その全体像についてはあまり語られてこなかった」と指摘。梅原氏も、「白秋というルネサンス的巨人の総合的把握が必要。三木さんのこの作品は白秋という巨人を初めて総合的に扱った最初の評論で、末永く残る作品。」と賞賛。柳田氏は「白秋の特異な言語感覚の根源に切り込んだ」とこの作品の優れた点を指摘した。このほか、北原白秋と宮沢賢治、詩人とお金の問題など、受賞作をめぐって多面的なテーマで議論された。
第8回(平成15年)
- 姥ざかり花の旅笠
田辺聖子
(集英社刊) -
-あらすじ-
江戸時代後半、筑前の大店のお内儀、宅子さんと久子さんが、歌を詠みつつ伊勢から江戸、日光、善光寺を巡る5カ月間3200キロの知的冒険お買い物紀行がよみがえる!江戸の熟年女旅のおもしろさ。
- 受賞者プロフィール
- 1928年大阪市生まれ。樟蔭女子専門学校(現大阪樟蔭女子大学)国文科卒。1956年、『虹』で大阪市民文芸賞受賞、1964年に『感傷旅行(センチメンタル・ジャーニィ)』で芥川賞受賞、『花衣ぬぐやまつわる・・・わが愛の杉田久女』で女流文学賞、『ひねくれ一茶』で吉川英治文学賞をそれぞれ受賞する。1994年、第41回菊池寛賞受賞。1998年、『道頓堀の雨に別れて以来なり―川柳作家・岸本水府とその時代』で第26回泉鏡花賞、翌年同作品で第50回読売文学賞も受賞。1995年、紫綬褒章受章。2000年、文化功労者となる。
- 授賞式・記念公開シンポジウム・・・平成15年12月4日
- 第8回蓮如賞は田辺聖子氏『姥ざかり花の旅笠』に授与された。受賞作は、江戸時代の商家のおかみ・小田宅子ら一行の旅行記をもとにした作品で、当時の仏神信仰の様子が生き生きと描かれている。
大谷暢順理事長より「敬虔(けいけん)な心と日本人の歌心を浮き彫りにされた貴女の作品を称えます。」と賞された。
授賞式に引き続き、今回の選考委員、梅原猛氏、三浦朱門氏、柳田邦男氏、山折哲雄氏に、受賞者である田辺氏を加え、公開シンポジウム「日本人の旅・遊び・信仰-田辺聖子『姥ざかり花の旅笠』をめぐって」が催された。
参加者各々が、作品の論評を加えながら、日本の江戸時代というものが、いかに平和で且つ文化的に優れた時代であったかという点に注目し、そういった中で日本独特の精神世界、宗教性というものが形成されていった事などを熱心に語りあった。
田辺作品の愛読者をはじめ、招かれた多くの聴衆は示唆に富んだ諸氏の話に聞き入っていた。
- ■ 第1回~第7回はこちらをご覧ください
- ※第7回(平成13年)までは未発表作品を公募して賞の対象にしたが、親鸞賞が同財団によって創設されたことに伴って、第8回(平成15年)から運営方法を一新し、二年に一回、親鸞賞と交互に実施し、既に発表されたノンフィクション作品を対象とする。